東京高等裁判所 昭和55年(ラ)661号 決定
一 まず、一件記録によれば、次の事実が認められる。
1 原裁判所である新潟地方裁判所(以下、「原裁判所」という。)は、控訴人加藤久松(抗告人)、被控訴人新潟県(相手方)間の同裁判所昭和五四年(レ)第一七号損害賠償金請求控訴事件について、昭和五五年一月二八日、控訴棄却の判決の言渡をなし、同判決は、同月三〇日、抗告人に送達された。
2 右判決に対し、抗告人は、昭和五五年二月八日、上告状を直接東京高等裁判所に提出して、上告の申立をしたところ、同裁判所は、同月一四日、事件を原裁判所へ移送する旨の決定をなし、同決定は、同月二一日、抗告人に送達された。なお、抗告人は、右の間の同月一八日に、公判準備書面(上告人の理由書)と題する書面を東京高等裁判所に提出し、同書面は、一件記録に添付された。
3 ところで、右事件の移送を受けた原裁判所は、同裁判所昭和五五年(レツ)第六号上告受理事件として立件したうえ、当事者に対し上告受理通知書を発送したが、抗告人に対しては、昭和五五年四月二一日に右通知書が送達された。
4 更に、原裁判所は、昭和五五年四月一五日付で、抗告人に対し、上告理由書記載の上告理由(前記上告状及び公判準備書面各記載の上告理由を指すものと解される。)につき民事訴訟規則第四六条、第四七条所定の事項を記載した書面を命令送達の日から一四日以内に提出すべき旨の補正命令を発し、同命令は、右上告受理通知書の送達と同時に、抗告人に送達された。
5 これに対し、抗告人は、右補正命令所定の補正期間内に同命令所定の事項を記載した書面を原裁判所に提出しなかったところ、原裁判所は、昭和五五年五月二〇日付で、「上告状、上告理由書における上告のすべての理由の記載が民事訴訟規則第四六条・四七条の規定に違反し、かつ所定の期間内(補正命令送達の日より一四日以内)にそのけん欠の補正をしない」ことを理由として、民事訴訟法第三九九条第一項により前記上告を却下する旨の決定をなし、同決定は、同月二三日抗告人に送達された。
二 ところで、民事訴訟法第三九八条第一項、民事訴訟規則第五〇条によれば、上告理由書は上告人が上告受理通知書の送達を受けた日から五〇日の期間内にこれを原裁判所に提出すべき旨定められているところ、右上告理由書提出期間は、民事訴訟法第一五八条にいう不変期間ではないが、上告理由書の作成準備のために必要な期間として定められたものであり、上告人の利益を考慮した期間であるから、裁判所は、右期間を伸長することはできるが、これを短縮することはできないものと解すべきである。従って、上告状、上告理由書における上告の理由の記載が民事訴訟法第三九八条第二項、民事訴訟規則第四六条、第四七条に違背する場合に原裁判所が民事訴訟規則第五三条第一項によって発すべき補正命令は、右上告理由書提出期間の経過を待って発するのが相当であり、仮に右期間の経過前にこれを発したときであっても、民事訴訟法第三九九条第一項第二号後段、民事訴訟規則第五三条第二項による上告却下の決定は、右期間(及び補正命令所定の補正期間)の経過した後でなければ、これを適法にすることができないものというべきである。
そこで、以上の見解に立って、原裁判所のなした前記上告却下決定の適否について考察するに、前記認定の事実によれば、上告受理通知書が抗告人に対して送達された日は昭和五五年四月二一日であるから、前記上告についての上告理由書提出期間の末日は同年六月一〇日であるというべきであり、従って、抗告人としては、右六月一〇日の経過するまでは上告理由書の提出ないし補正を適法にすることができたものというべきところ、前記認定の事実によれば、原裁判所は、右上告理由書提出期間の経過を待たずに前記補正命令を発し、しかも、右提出期間の経過前に民事訴訟法第三九九条第一項第二号後段、民事訴訟規則第五三条第二項による上告却下の決定をしたものであることが明らかである。
そうすると、右の原決定は、民事訴訟法及び民事訴訟規則における前記各関係規定の解釈、適用を誤ったものというべきであって、その取消しを免れない。
なお、ここで原決定を取消したとしても、前記上告についての法定の上告理由書提出期間がすでに終了していることは明らかであるから、原裁判所としては、民事訴訟法第一五八条第一項本文により、右上告理由書提出期間を相当の期間伸長する旨の決定をしたうえ、抗告人に対し上告理由書の提出ないし補正をする機会を与えるのが相当である。従ってまた、ここで原決定を取消す利益も存するものというべきである。
(沖野 奥村 佐藤)